小島秀夫監督インタビュー

3年半の歳月を費やし、ついに完成を見た『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』。小島秀夫監督が語る、そこに込められた想いと、アイデアを実現するために使用した手法とは?

●取材について

Q: MGSシリーズでは作品づくりにあたり、最初に時間をかけて取材を行っていますね。
小島監督:
『MGS1』からですね。映画でも小説でも、地道に取材してロケして、それでものづくりを行うっていうのが本来の筋道なんです。 ゲームもプレイステーションあたりから描画能力が上がってきたんで、そろそろそういう作り方が必要だと思いました。 当時はゲームを作るのに取材をするなんて言うと「何じゃそれ?」とか言われるような時代だったんですが、 当時の社長が理解のある人で、これからはそういうことも必要だろう、と言ってくれた。 それで軍事アドバイザーの毛利元貞さんにお願いして、米軍基地やSWATの訓練、武器などの取材を行いました。 それが最初で、その後も『2』ではニューヨーク、『3』では屋久島のジャングルとか、舞台となる場所も取材していますね。 毛利さんからは軍事訓練も受けています。


Q: 今回の『4』ではどのような取材を?
小島監督:
今回は舞台となる場所、国自体は明確にしていないんですが、想定される環境に近い国を回ったのと、軍事訓練の総集編、それからもう一歩先に進んだ訓練ですね。
Q: 総集編というのは?
小島監督:
新ちゃんとか、今までも一緒にやってきてるスタッフはもうわかっていることなんですが、今回は人数も増えているので、 新しく入ったスタッフは銃器の扱いとか全く知らないんです。まずはそのあたりの初歩から始めて、 最終的には世界で最も進んでいる訓練というのを一部体験させてもらって、その中から出てきたものをゲームに取りこんでます。
Q: それはどんな訓練なのでしょうか?
小島監督:
スカウトの訓練とか、機密保持上あまり言えないんですが、心理的に追い詰められたら人間どうなるかとか、主に心理戦的なものですね。 それから気を研ぎ澄ませるという、東洋的なもの。目をつぶったまま部屋を出ていけるかとか、そういったこともやりましたね。 今回は、座学というか講義をまず、全然知らないスタッフも含めて、全員出てもらいました。それから泊まり込みで心理戦の訓練。 その次は、これも泊まり込みで、武器の扱いから索敵とかそういった全般を、これもほぼ全員でやりました。 最後の訓練だけ、ちょっと高度というか危険なので、主要メンバーだけで山の中で、これも1泊2日ですね。 スカウトの訓練なので顔に泥を塗って、自分の持ち物全部迷彩にするのも手作りでやりました。


Q: 今回そういった、心理的なものや東洋的なものを導入した理由というのは?
小島監督:
今までのMGSだと、潜入した先にいるのは全部敵なんですよ。敵地への潜入ですから。 今回はそれをさらに発展させて戦場への潜入というコンセプトが最初にあったので、周囲ではスネークとは無関係に民兵とPMCが戦っている。 そのときに、彼らの精神状態を利用したりすると先に進みやすくなるという、そういうギミックを導入するために、 まずは自分たちでそういった心理を勉強しましょう、というのがあったんです。最終的にはわかりやすさを優先したので、 それほど複雑なものにはしませんでしたけれど。それでも、それぞれの兵士に感情値というものがあって、 気の弱い兵士は仲間が死んだら怖がってすぐに逃げてしまったり、そういう要素は入っています。
Q: いままではみんな同じ反応だったのが、兵士ひとりひとりの感情や個性が表現できるようになった。
小島監督:
ただPMCのほうはナノマシンで感情を制御しているので、感情の高ぶりはあるんですけど、ある程度以上はいかないようになっています。 限界値までいくのはナノマシンが入ってない人たちですね。もう、叫んで倒れたりとか、泡吹いたりとか、戦場の恐ろしさを存分に見せつけてくれますよ。 あとは今回、BB部隊という敵がいるんですが、4つの感情を元に生まれた怪物という設定ですから、そのあたりも戦場での心理面というのを追求した理由ですね。 今は実際の軍隊でもそこが重要視されてるんですよ。衛生兵がいるのと同様に、先進国では軍隊にカウンセラーがつくのが常識になってきている。 『2』で登場したローズも、今は戦闘ストレス小隊の心理カウンセラーをやっているという設定です。


Q: そういったカウンセリングなどが実際の戦場で効果がある?
小島監督:
それはありますね。今回の『4』では、ライフゲージの下に気力ゲージというのがあるんです。『3』でいうスタミナゲージと似たものなんですが、 気力が下がるっていうのはいろんな側面があって、例えば暑い場所や寒い場所でずっと立っているとか、危険状態になって敵から追われまくってるとか、 あるいは人を殺しすぎたとか、そういったことでストレス値がたまってくると、気力が下がっていろいろなことに影響が出てくる。 そういうときにどうしたらいいかっていうのを、カウンセラーのローズに聞くと教えてくれるんです。
寒いところであれば暖かいもの食べたり、 暑いところであれば冷たい飲みものを飲んだり、あるいは音楽を聴くとか。細かいことですけれど、そういったものがゲームデザインの中にある。 で、そうしたことを気にしながらプレイをしていくと、何となく戦場でのメンタルケアっていうのが見えてくる。
Q: 人を殺すことでもストレスが上がる。
小島監督:
兵士も人間ですから。あまりにも殺してるとスネークが吐いてしまうこともあります。 コンバットハイというのもあって、それもそのときはアドレナリン出っぱなしでいいんですが、終わったときがちょっと怖い。
Q: スレットリングにしても、今回はそういったメンタルな部分が重視されています。
小島監督:
もう今の最先端はそこまで来てると思いますし、突き詰めると、究極の兵士というのは忍者に近いものらしいんですよ。 『3』でいうとジ・エンドみたいな、森と一体化してるような。スネークやPMCの装備はハイテクですけれど、 それでも戦いの中ではメンタルな部分、SENSEが重要になってくるんです。
※スレットリング


Q: 海外は3ヵ国を取材したということですが。
小島監督:
PS3なので、背景はやはり非常に緻密でリアルなものが要求されます。そこでモロッコ、ペルー、プラハの3ヵ所を取材しました。 おもに背景とスクリプターと僕とかが行くんですけど、人数は一ヵ所につき6〜7名くらいですかね。 あとは溶鉱炉と、首都圏外郭放水路。軍事関係のショーもちょくちょく行ってます。
Q: それぞれの場所ではどのような取材を?
小島監督:
当然ビデオも撮るし、写真も合計すると数万枚、サウンドも音を録ってきて、それらをもとに3Dモデルとかを作るんですが、 写真を撮るだけではまず臨場感は出ないので、それだけじゃなくて街を朝から晩まで歩いて、いろんな場所に行って、そこの匂いとか空気感とか、 特産物とか食べ物とか、そういったものをかき集めて、どの部分を取り込んでいくか考えます。臨場感を出すのに何が必要かっていうのは、 やっぱり行ってみないとわからないんです。今はもちろん、図書館に行ったり、インターネットでも写真はいくらでも手に入るんですよ。 ただそれを見たところでやっぱり匂いもわからないし、温度もわからないし。
ペルーなんて高山病でうちのスタッフがほとんど動けなかったっていうくらいなんで(笑)、そういうところも含めて体験したうえで、 ゲームの中に落とし込んでいくというのが重要なんです。観光地ではないところは、取材もかなり難しかったですけれど。 普通に行くと、どこの国の人もいいところしか見せてくれないんです。でも僕らが見たいのはそういう観光地とかじゃなくて、 裏路地にゴミが溜まっていたりとか、そういう風景なんです。そこを無理にでも見せてもらう。さすがに戦場には入れませんけれど、戦場の跡地を見たり。


Q: それだけ取材に時間をかける理由は?
小島監督:
まあ、見て作るものと、見ないで作るものとでは大きく違うという、それだけの話です。たとえば中東の景色を作るにしても、 想像だけで作ったり、誰かが撮った写真をもとに作っても薄っぺらなものにしかならない。まあ一週間ぐらい行っただけで何がわかんねん、 と言われればそれもそうなんですが(笑)、それでも本物を見たことがあるのとないのでは全く違う。やっぱりものづくりの過程でその現物を見る、 現場の人に話を聞く、実際に体験してみる、そういうのは非常に重要だと思うんですね。エンタテインメントを作るには必須のプロセスです。 日本のエンタテインメントはどうしてもそこが欠落してるんですけど。小説とかでも。
Q: ゲーム業界でも、そこまで取材している作品は多くありません。
小島監督:
やっぱり時間とお金がかかるからでしょうね。ただ海外ではそれが当たり前のようにされてるんです。 小説にしても、医者の主人公だったら医者と同行して、あらゆること聞いたり体験して、それをもとに書くんで、 このままじゃ日本のコンテンツに勝ち目はないですよね。まあ向うは年に1冊出せばいいような環境ができているからやれることではあるんですが。 日本のライトノベルなんて下手すると2ヶ月に1冊ですもんね。そうなるとごく普通の学園ものや想像だけのファンタジーしか書けませんよね。
インタビューア:玉利越