「TIME HOLLOW -奪われた過去を求めて-」のアナザーストーリー短編小説版です。
ゲームのストーリーが始まるまでの部分を、少しだけ違う『過去』から見ていきます。
「おいっ、歩郎? 歩郎っ!」
「えっ!? あ? うん、なんだっけ?」
気がつくと、クラスメイトの三原が怪訝な顔でこっちを見ていた。
「なんかおまえ、今日、ヘンだぞ」
「いや、何でもないよ」
「ならいいけど。今日、うち、寄るだろ?」
ぼくは頷いた。三原はマイペースなやつだけど、昔からぼくのことをさりげなく気遣ってくれたりして、けっこう頼りになる。彼を心配させたくなくて、「何でもない」なんて言ったけど、今日は朝からずっと、なんだか自分が自分でないような気がしてならない。
授業が終わって、帰りのホームルームが始まったのはいつだったか。ぼくの隣では勉強が好きで、努力家の五島がずっと同じ姿勢で参考書を見ていたから、まったく気づかなかった。
「おい、歩郎! 今日、どうしてもついてきてほしいとこがあるんだよ。今度のは本当にすごいんだ。ホンモノだよ」
四堂が新調したばかりのメガネを上げながら、近づいてきた。四堂はかなりホレっぽい。お目当ての女の子を見つけては、「今度こそホンモノの恋だ」と繰り返す。今回もそんなとこだろう。
「今日はちょっとなあ……」
「だって三原の家には行くんだろう?」
「俺は時計のカタログ渡すだけだよ」と三原が代わりに答えた。
「そうなんだ。今日は早く帰ってフォ郎でも洗ってやろうと思って」
「ちぇっ。僕はおまえの飼い猫に負けたのか」
四堂が口を尖らせた。
ぼくは明日で17歳になる。
時計マニアと呼ばれるぼくは、バイト代をこつこつと貯め、前からずっと狙っていた腕時計を自分の誕生日に買うと宣言していた。
本当ならば、誕生日のプレゼントなど親にねだったりするのだろうが、ぼくの両親はぼくが5歳の時に失踪したきりだ。それからは、父さんの弟、つまり、おじさんに育ててもらっている。だから、「誕生日に時計を買ってほしい」なんて言えやしない。
「四堂も飼い犬――名前なんだっけ? たまには洗ってやれよ」
ぼくが言った瞬間、四堂の顔がみるみる間にこわばっていった。
「何言ってんだよ、歩郎。僕の前で、犬の話なんてするな!」
思わず立ち上がった四堂を、五島が「そんなに興奮するな」となだめる。四堂はストンと椅子に座ったが、ぼくから顔を背け、それからこちらを見ようとはしなかった。
教室にはもう、ぼくたちしか残っていなくて、妙な空気が流れた。
何か話題を見つけなきゃ……と焦ったぼくは、さっきから校庭の隅のバスケットコートを眺めている三原に声をかけた。
「そういえば、三原。次の試合、いつだっけ?」
すると三原は振り返り、不思議そうにぼくの顔を見た。
「……歩郎、本気で言ってるのか? それとも寝ぼけてんのか?」
「えっ?」
ぼくが聞き返すと、逆に三原は黙り込んでしまい、さらに気まずい雰囲気が漂った。そこでぼくはハッと思い出した。三原は腰を痛めて、バスケ部を辞めたのだった。なんでぼくは、三原がバスケ部でレギュラーに選ばれたなどと思ったのだろう。
五島が参考書から顔を上げ、淡々とぼくに言った。
「歩郎。今日はもう帰ったほうがいい」
冷静な五島の判断に、「そうする」とぼくはゆっくり立ち上がり、三原には、「ごめん、また今度にするよ」と声をかけ、教室を出た。